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がん治療において、従来の抗がん剤とは異なるアプローチで注目を集めているのが「分子標的薬」です。がん細胞の特定の分子をピンポイントで攻撃する仕組みにより、正常な細胞へのダメージを抑えながら治療効果を発揮します。
本記事では、分子標的薬の基本的な仕組みから、具体的な種類、副作用まで、患者さんやご家族が知っておくべき情報を詳しく解説していきます。
分子標的薬とは、がん細胞に特異的に発現する分子や遺伝子をターゲットとして、がん細胞の異常な増殖や分裂を抑える治療薬です。従来の抗がん剤が正常な細胞とがん細胞を区別せずに攻撃するのに対し、分子標的薬はがん細胞の持つ特定の分子だけを狙い撃ちにします。
がん細胞は正常な細胞と異なり、際限なく増殖し続ける性質を持っています。この異常な増殖には特定のタンパク質や酵素、遺伝子の変異が関わっているのです。分子標的薬はこれらの「標的分子」に結合することで、がん細胞の増殖シグナルを遮断したり、細胞死を誘導したりします。
分子標的薬の開発により、がん治療は「個別化医療」の時代に入りました。患者さんのがん細胞を詳しく分析し、どのような遺伝子変異や分子の異常があるかを調べることで、その患者さんに最適な分子標的薬を選択できるようになっています。
たとえば、肺がんの約5%に見られるALK遺伝子の異常や、乳がんの約20〜30%に見られるHER2タンパク質の過剰発現など、特定の分子異常が確認された場合に、それぞれに対応する分子標的薬が使用されます。遺伝子検査やバイオマーカー検査の精度向上により、より効果的ながん治療の実現が可能となっています。
分子標的薬には、従来の抗がん剤と比較していくつかの優れた点があります。具体的には、以下のとおりです。
ここでは主なメリットについて解説します。
分子標的薬の最大のメリットは、がん細胞を選択的に攻撃できるため、正常な細胞へのダメージを最小限に抑えられることです。従来の抗がん剤は、細胞分裂の盛んな細胞を攻撃する仕組みのため、毛根や消化管の粘膜など正常な細胞も影響を受けてしまいます。
分子標的薬は特定の標的分子だけを狙うため、脱毛や激しい吐き気といった従来の抗がん剤で見られる典型的な副作用が比較的少ない傾向にあります。患者さんの生活の質を保ちながら治療を続けられる点は、大きな利点となります。
遺伝子検査やバイオマーカー検査によって、その患者さんのがん細胞に標的分子が存在するかどうかを事前に確認できます。標的分子が存在する場合は治療効果が期待できるため、効果の見込めない治療を避け、より適切な治療法を選択することが可能です。
検査結果に基づいて治療方針を決定できることで、無効な治療による身体的・経済的負担を軽減できます。適切な治療を受けるためにも、ぜひ活用したい方法です。
多くの分子標的薬は、がん細胞を直接殺すのではなく、がん細胞の異常な増殖シグナルを遮断したり、がん細胞に栄養を供給する新生血管の形成を妨げたりすることで効果を発揮します。
この作用機序により、従来の抗がん剤とは異なるアプローチでがんの進行を抑制できます。このようにがん細胞の増殖を制御することで、長期的な病状コントロールが期待できます。
優れた点が多い分子標的薬ですが、理解しておくべきデメリットや注意点も存在します。代表的なものは、以下の4つです。
治療を検討する際は、これらの点も十分に把握しておくことが重要です。
副作用が少ないと思われがちな分子標的薬ですが、実際には薬剤ごとに特有の副作用があり、なかには重篤な副作用も報告されています。従来の抗がん剤とは異なるタイプの副作用が出現するため、事前にどのような副作用が起こりやすいのかを十分に理解しておく必要があるのです。
具体的には以下のような影響が報告されています。
他にも、薬剤によってさまざまな副作用が報告されています。治療開始前に医師から詳しい説明を受けることが大切です。
分子標的薬による治療を続けていると、がん細胞が薬剤に対する耐性を獲得し、効果が弱まってしまうケースがあります。耐性が生じた場合、別の分子標的薬への変更や、他の治療法との組み合わせを検討することになります。
がん細胞は遺伝子変異を起こしやすい性質があるため、治療中も定期的な検査を行い、都度効果を確認しながら最適な治療を選択していく必要があるでしょう。
分子標的薬は、標的となる分子異常が存在する患者さんにのみ効果を発揮します。遺伝子検査の結果、該当する分子異常が見つからない場合は、その分子標的薬を使用できません。
また、標的分子が存在しても、すべての患者さんに同じように効果が現れるわけではない点にも注意が必要です。個人差があるため、治療効果を慎重にモニタリングしながら進めていくことが求められます。
分子標的薬は開発に多大なコストがかかるため、薬価が高額になる傾向があります。日本では高額療養費制度により、医療費の自己負担額に上限が設けられているため、実際の負担額は所得に応じて軽減されます。
しかし、日本でも自由診療で行われる場合はさらに高額になります。例えば、乳がんの患者さんでは保険診療では数種類の一部の遺伝子検査を行いますが、これら以外の遺伝子に変異が見つかった場合には自由診療になります。この場合にはかなりの効果が期待できますが、1月約100〜200万円という高額な治療が6〜12ヶ月かかるため、経済的に判断していく必要があります。

分子標的薬にはさまざまな種類があり、それぞれ異なる標的分子に作用します。ここでは代表的な分類を紹介します。
| 薬剤の種類 | 標的分子 | 主な対象がん | 作用メカニズム | 代表的な薬剤名 |
| 抗HER2療法薬 | HER2タンパク質 | 乳がん、胃がん | HER2受容体を阻害し、がん細胞の増殖を抑制 | トラスツズマブ(ハーセプチン)、ペルツズマブ |
| EGFR阻害薬 | 上皮成長因子受容体(EGFR) | 肺がん、大腸がん | EGFR遺伝子変異による増殖シグナルを遮断 | ゲフィチニブ、エルロチニブ、オシメルチニブ |
| ALK阻害薬 | ALK融合遺伝子 | 肺がん | 異常なALKタンパク質の働きを阻害 | クリゾチニブ、アレクチニブ |
| 血管新生阻害薬 | 血管内皮増殖因子(VEGF) | 大腸がん、肺がん、乳がんなど | がん組織への血管形成を妨げ、栄養供給を遮断 | ベバシズマブ(アバスチン) |
| CDK4/6阻害薬 | CDK4/6酵素 | 乳がん(ホルモン受容体陽性) | 細胞周期の進行を阻害し、増殖を抑制 | パルボシクリブ、アベマシクリブ |
患者さんのがん細胞にどの標的分子が存在するかによって、使用可能な分子標的薬が決まります。遺伝子検査の結果に基づき、最も効果が期待できる薬剤が選択されるのです。
分子標的薬は従来の抗がん剤とは異なるタイプの副作用が現れます。薬剤ごとに特徴的な副作用がありますので、治療開始前に医師から十分な説明を受けることが重要です。
| 副作用 | 主な症状 | 関連する薬剤 | 対処法・注意点 |
| 皮膚症状 | にきび様の発疹、手足症候群(手のひらや足の裏の発赤・痛み)、爪の変形、爪周囲の炎症 | EGFR阻害薬など | 保湿ケア、皮膚科的治療が必要な場合あり |
| 高血圧 | 血圧の上昇 | 血管新生阻害薬 | 定期的な血圧測定、必要に応じて降圧薬による治療 |
| 下痢 | 軽度から重度の下痢症状 | 多くの分子標的薬 | 水分補給、食事の工夫、重度の場合は脱水症状に注意 |
| 間質性肺炎 | 咳、息切れ、発熱 | EGFR阻害薬など | 重篤な副作用のため、症状出現時は速やかに受診が必要 |
| 心毒性 | 心機能の低下 | 抗HER2療法薬 | 定期的な心機能検査、異常時は投与中止の可能性あり |
副作用の種類や程度は個人差が大きいため、治療中は定期的な検査と医師とのコミュニケーションが重要です。軽微な症状でも早めに相談することで、適切な対処が可能となります。
分子標的薬による治療を受けられるかどうかは、いくつかの要素によって判断されます。
まず、がん組織や血液を用いた遺伝子検査やバイオマーカー検査を行い、標的となる分子異常が存在するかを確認します。特定の遺伝子変異やタンパク質の発現が確認された場合に、対応する分子標的薬の使用が検討される流れです。
分子標的薬は、承認されているがん種や病期が薬剤ごとに決まっています。たとえば、手術可能な早期がんには使用できず、進行・再発がんに対してのみ使用できる薬剤もあります。治療ガイドラインに沿って、適切なタイミングで使用されるのです。
また、分子標的薬による治療を安全に行うためには、ある程度の体力と臓器機能が保たれている必要があります。心機能や肝機能、腎機能などに重度の障害がある場合は、使用が制限されることがあります。全身状態を総合的に評価した上で、治療方針が決定されるのです。
分子標的薬は、がん細胞の特定の分子をピンポイントで攻撃する新しいタイプの治療薬です。従来の抗がん剤と比べて正常細胞へのダメージが少なく、遺伝子検査により効果を事前に予測できるという利点があります。
一方で、薬剤ごとに特有の副作用があり、すべての患者に効果があるわけではないこと、治療費が高額になりやすいことなど、理解しておくべき点もあります。分子標的薬による治療を検討する際は、担当医から十分な説明を受け、メリットとデメリットを理解した上で、自分に最適な治療法を選択することが大切です。
がん治療は日々進歩しており、新しい分子標的薬も次々と開発されています。最新の治療情報を得ながら、希望を持って治療に臨んでください。
当院では約200種類の遺伝子変異を検査で探していき、専門チームで治療していきます。保険診療では見つけられなかった遺伝子変異とそれに対する分子標的薬を見つけることが可能になりますが、その代わりに高額な医療になるため、医師と相談しながら進めることが重要です。
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