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肺がんの治療において、免疫療法は近年注目を集めている革新的なアプローチです。従来の抗がん剤治療や放射線治療とは異なり、患者さん自身の免疫システムを活性化させることで、がん細胞を攻撃する治療法として期待されています。
本記事では、肺がんに対する免疫療法の仕組みや種類、期待できる効果や注意すべき副作用について解説します。
免疫療法は、私たちの体に備わっている免疫システムを利用した治療法です。免疫システムは本来、体内に侵入した細菌やウイルスなどの異物を認識し、攻撃することで健康を守っています。
がん細胞も本来は免疫システムによって排除されるべき異常な細胞です。しかし、免疫細胞の働きを抑制する物質を分泌したり、免疫細胞に「攻撃してはいけない」という偽の信号を送ったりするため、免疫システムの攻撃から逃れています。
免疫療法は、がん細胞によって抑制されている免疫システムの働きを回復させ、本来の力を取り戻すことを目的としています。従来の化学療法ががん細胞を直接攻撃するのに対し、免疫療法は体の防御システムを強化するという点で、治療のアプローチが根本的に異なるのです。
BCG‑CWS とは、Mycobacterium bovis 由来の、細胞壁成分(細胞壁骨格:Cell Wall Skeleton; CWS)を精製したものです。1990年代以降、この CWS が持つ強い免疫賦活作用を利用して、がん免疫療法やワクチンのアジュバント(免疫応答増強補助剤)として研究されています。
具体的には、BCG-CWS は樹状細胞(dendritic cells, DC)を成熟させ、Toll-like receptor (TLR) 2/4 を介してサイトカイン産生や共刺激分子の発現を誘導し、結果として抗原特異的な細胞性免疫応答(CD8⁺ 細胞傷害性 T 細胞など)や Th1 型応答を促進することが報告されています。
また、動物実験では、BCG-CWS をワクチンと併用することで、抗体産生および細胞性免疫が強化され、インフルエンザワクチンに対しても高い防御効果が得られた例があります。
臨床面では、術後療法後の肺がん患者を対象とした成人病センターでの治験において、生存率向上が示されております。
BCG-CWS は「生菌 BCG の弱点(感染性、品質管理、投与制限など)」を回避しつつ、BCG がもつ強力な免疫賦活能を “成分ベースで” 利用可能にする技術であり、がんワクチンや感染症ワクチンのアジュバントとしての応用が期待されている物質です。
論文名: Adjuvant immunotherapy of lung cancer with BCG cell wall skeleton (BCG-CWS) 著者: Yamamura Y(山村雄一), Azuma I(東市郎) et al. 掲載誌: Cancer (1979)
【内容】 肺がん患者455名に対し、標準治療(手術や放射線)のあとにBCG-CWSを皮内注射した群と、しなかった群(過去のデータ)を比較しました。
論文名: Innate immune therapy with a Bacillus Calmette-Guérin cell wall skeleton after radical surgery for non-small cell lung cancer: A case-control study 著者: Hayashi A(林昭) et al. 掲載誌: Cancer Immunology, Immunotherapy (2009)
【内容】 非小細胞肺がん(NSCLC)の手術後にBCG-CWS療法を受けた71名の患者さんと、同等の条件で受けなかった患者さんを比較したケースコントロール研究です。
肺がん治療で主に使用される免疫療法は、免疫チェックポイント阻害薬と呼ばれる薬剤です。私たちの体には、免疫システムが過剰に働きすぎないようにブレーキをかける仕組みが備わっており、「免疫チェックポイント」と呼ばれています。正常な状態では自己免疫疾患を防ぐために重要な役割を果たしていますが、がん細胞はこの仕組みを悪用し、免疫細胞にブレーキをかけることで攻撃から逃れています。
免疫チェックポイントの中でも特に重要なのが、PD-1とPD-L1というタンパク質の関係です。PD-1は免疫細胞であるT細胞の表面に存在し、PD-L1はがん細胞の表面に発現しています。がん細胞のPD-L1が免疫細胞のPD-1に結合すると、T細胞にブレーキがかかり、がん細胞への攻撃が止まってしまいます。
免疫チェックポイント阻害薬は、このPD-1とPD-L1の結合を妨げることで、免疫細胞にかかっているブレーキを解除し、T細胞が再びがん細胞を攻撃できるようにする仕組みです。
現在、肺がん治療には複数の免疫チェックポイント阻害薬が承認されており、PD-1阻害薬とPD-L1阻害薬を中心に、がんの種類や患者さんの状態に応じて使い分けられています。それぞれの薬剤には特徴があり、治療効果を最大化するために適切な選択が重要です。それぞれ詳しく解説します。
PD-1阻害薬は、免疫細胞側のPD-1に結合することで、がん細胞からの抑制信号をブロックします。ニボルマブ(オプジーボ)は、非小細胞肺がんの治療薬として世界で初めて承認された免疫チェックポイント阻害薬です。単剤での使用のほか、化学療法との併用でも効果が認められています。
ペムブロリズマブ(キイトルーダ)は、PD-L1の発現レベルに応じて単剤治療または化学療法との併用で使用され、非小細胞肺がんだけでなく小細胞肺がんに対しても使用の幅が拡大しています。
PD-L1阻害薬は、がん細胞側のPD-L1に結合することで免疫抑制を解除します。アテゾリズマブ(テセントリク)は、化学療法との併用で使用されることが多く、非小細胞肺がんと小細胞肺がんの両方に適応があります。
デュルバルマブ(イミフィンジ)は、切除不能なステージIIIの非小細胞肺がんに対して、化学放射線療法後の維持療法として使用され、高い効果が報告されています。また、イピリムマブ(ヤーボイ)は、CTLA-4という別の免疫チェックポイントを標的とする薬剤で、ニボルマブとの併用療法で使用されることがあります。
肺がんは大きく非小細胞肺がんと小細胞肺がんに分類され、それぞれに対して免疫療法の適応や使用方法が異なります。ここでは、各タイプの肺がんに対する免疫療法の位置づけと治療効果について説明します。
非小細胞肺がんは、肺がん全体の約85%を占める最も一般的なタイプです。進行非小細胞肺がんの一次治療として、免疫チェックポイント阻害薬の単剤療法または化学療法との併用療法が推奨される場合があります。
具体的には、PD-L1発現レベルは、免疫チェックポイント阻害薬の効果を予測する重要な指標です。PD-L1発現レベル50%以上の患者では、免疫チェックポイント阻害薬の単剤療法が優先的に検討され、化学療法と比較して生存期間の延長が報告されています。
一方、発現レベルが1〜49%の場合は化学療法と免疫療法の併用が、1%未満の場合は化学療法が主体となります。また、免疫療法との併用が検討される場合もあります。切除不能なステージIIIの非小細胞肺がんでは、化学放射線療法で病勢がコントロールされた後、デュルバルマブによる維持療法が標準治療となっており、病気の進行を遅らせ、生存期間を延長できることが示されているのです。
小細胞肺がんは、肺がん全体の約15%を占め、進行が速く転移しやすいという特徴があります。従来、進展型小細胞肺がんの治療は化学療法が中心でしたが、近年、免疫チェックポイント阻害薬が加わることで治療選択肢が広がりました。
現在、進展型小細胞肺がんの一次治療として、化学療法(カルボプラチンまたはシスプラチン+エトポシド)に免疫チェックポイント阻害薬を併用する治療法が推奨されています。臨床試験では、化学療法に免疫チェックポイント阻害薬を加えることで、化学療法単独と比較して生存期間が延長することが示されています。
特にアテゾリズマブまたはデュルバルマブの追加により、全生存期間の改善が認められており、小細胞肺がん患者にとって新たな希望となっているのです。

免疫療法は、従来の治療法とは異なる特徴的な効果パターンを示します。
化学療法では、効果が現れる場合、治療開始後比較的早期に腫瘍の縮小が確認されるのが一般的です。一方、免疫療法では効果が現れるまでに数か月かかることもあります。ただし、一度効果が現れると、その効果が長期間持続する可能性が高いという特徴があります。
この結果は複数の臨床試験により、免疫チェックポイント阻害薬は進行肺がん患者の生存率を改善することが示されたことに基づいています。特に注目されるのは、長期生存者の割合が増加している点です。
従来の化学療法では、進行非小細胞肺がんの5年生存率は数%程度でしたが、免疫療法の登場により、一部の患者では5年以上の生存も期待できるようになってきました。なお、効果が期待できる要因として、以下の条件を満たす必要があることもわかっています。
もちろん必ずしも条件に当てはまる必要はありません。あくまでも期待できる要因として理解しておきましょう。
BCG-CWSの場合はツベルクリン反応がメインの副作用になりますが、出現しない場合には免疫が低下している場合が多く、むしろ出現させるような投与を心掛けます。また、数%の他の副作用としては翌朝に一過性の微熱やリンパ節腫脹が見られことがありますが、すぐに引くことが多いです。
免疫チェックポイント阻害薬による副作用は、「免疫関連有害事象(irAE)」と呼ばれます。免疫システムが活性化されることで、正常な臓器や組織に対しても免疫反応が起こることが原因です。詳しく解説します。
皮膚症状としては、発疹やかゆみ、皮膚の乾燥などが比較的よく見られます。消化器症状では、下痢や腹痛、大腸炎などが起こることがあり、頻度の高い下痢や血便が見られた場合は、すぐに医療機関に連絡が必要です。
肺症状として間質性肺炎や肺臓炎が発症することがあり、息切れや咳、発熱などの症状が現れた場合は早急な対応が必要です。内分泌症状では、甲状腺機能異常や副腎機能不全、下垂体機能低下症などが起こる可能性があります。
また、肝機能障害が発生することもあり、定期的な血液検査でモニタリングされます。
免疫関連有害事象は、早期に発見して適切に対処することで、多くの場合コントロール可能です。
副作用が疑われる場合、免疫抑制薬であるステロイドを使用することで症状を改善できます。重症の場合は、免疫チェックポイント阻害薬の投与を一時中断または中止することもあるのです。
患者さん自身ができることとして、次のようなものがあります。
治療中は、医療チームと密にコミュニケーションを取り、安心して治療を続けられる環境を整えることが大切です。
免疫療法を開始する前に、PD-L1発現レベルの測定や遺伝子変異の有無を調べる検査が行われます。また、甲状腺機能や肝機能、腎機能などの全身状態を把握するための検査も実施されます。事前に検査を受けることで、免疫療法によるリスクを回避しやすくなるでしょう。
治療中は、定期的な画像検査と血液検査により、治療効果と副作用の有無が確認されます。免疫療法では、一時的に腫瘍が大きくなった後に縮小する「偽増悪」という現象が起こることがあるため、免疫療法特有の反応パターンを考慮した効果判定が行われます。
副作用が心配だからといって、自己判断で治療を中断することは避けてください。副作用が現れた場合は、必ず医療チームに相談し、適切な対処を受けることが重要です。免疫療法中は手洗いやうがいなど、基本的な感染予防策を心がけ、市販薬やサプリメントを使用する際は、必ず医師や薬剤師に相談してください。
肺がんに対する免疫療法の効果は多くの可能性を秘めています。免疫チェックポイント阻害薬は、がん治療に新たな可能性をもたらしました。また、BCG-CWSはより副作用が少なく治療でき、患者自身の免疫システムを活用することで、長期的な効果が期待できる画期的な治療法です。
独特の副作用があるものの、早期発見と適切な対処により、多くの場合コントロール可能です。治療法の選択にあたっては、がんの種類やステージ、遺伝子変異の有無、全身状態などを総合的に判断する必要があります。主治医とよく相談し、ご自身の状況に最も適した治療法を選択してください。
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