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私たちの体には、がん細胞やウイルスと戦う強力な免疫システムが備わっています。その中心的な役割を果たすのが「キラーT細胞」と「NK細胞(ナチュラルキラー細胞)」です。どちらも異常な細胞を攻撃する免疫細胞ですが、その働き方には大きな違いがあります。
本記事では、両者の特徴や役割、がん治療への応用についてわかりやすく解説していきます。
キラーT細胞とNK細胞の最も重要な違いは、所属する免疫システムと敵の認識方法です。それぞれの特徴を理解することで、両者がどのように体を守っているのかが見えてきます。詳しく見てみましょう。
キラーT細胞は「獲得免疫系」に属します。獲得免疫とは、特定の病原体やがん細胞を記憶し、2回目以降はより素早く強力に攻撃できる免疫システムです。ワクチンが効果を発揮するのも、この仕組みによるものです。一度戦った相手を覚えているため、再び同じ敵が現れた際には迅速に対応できます。
一方、NK細胞は「自然免疫系」に属します。自然免疫は生まれつき備わっている防御システムで、特定の病原体を記憶することはありません。しかし、記憶機能がない代わりに、初めて遭遇する敵に対しても即座に反応できる特徴があります。この即効性が、感染初期やがん細胞の発生初期において重要な役割を果たしています。
両者の認識システムには決定的な違いがあります。
キラーT細胞は、細胞表面に提示された特定の抗原を認識して攻撃します。鍵と鍵穴のような関係で、自分の受容体にぴったり合う抗原を持つ細胞だけを標的とする精密な仕組みです。この認識には樹状細胞による抗原提示が必要で、活性化して攻撃を開始するまでに数日から1週間程度かかるのが一般的です。正確性が高い一方で、時間を要するという特徴があります。
NK細胞は、細胞表面のMHCクラスI分子という目印が減少している細胞や、ストレスシグナルを出している細胞を検知します。がん細胞やウイルス感染細胞は免疫から逃れるためにMHCクラスI分子を減らすことがありますが、NK細胞はこうした「目印を隠した細胞」を見逃しません。活性化受容体と抑制性受容体のバランスで判断するため、事前の準備なしに即座に攻撃できるのです。
キラーT細胞は活性化に時間がかかる一方で、一部が「メモリーT細胞」として長期間生存します。同じ抗原が再び現れた際には、このメモリーT細胞が迅速に対応し、初回よりも強力な免疫応答を引き起こします。この記憶機能により、私たちは一度かかった感染症に対して免疫を獲得できるのです。
NK細胞は記憶機能を持ちませんが、常に体内をパトロールしており、異常を発見すれば即座に攻撃を開始できます。活性化のプロセスを必要としないため、感染やがん細胞の発生直後から防御機能を発揮します。初回の反応速度ではキラーT細胞を大きく上回りますが、2回目以降も同じ反応速度です。
キラーT細胞とNK細胞は、互いに補い合いながら体を守っています。両者は敵対するのではなく、協力して免疫応答を最大化する関係性を持っているのです。
感染症やがんの発生初期には、NK細胞が第一線で活躍します。即座に反応して病原体やがん細胞の増殖を抑えている間に、樹状細胞が抗原を収集してリンパ節でT細胞に情報を伝えます。数日かけてキラーT細胞が活性化・増殖すると、今度はキラーT細胞が主役となり、特定の標的を徹底的に排除するのです。このように、NK細胞の即効性とキラーT細胞の持続性が組み合わさることで、効果的な免疫応答が実現されています。
標的認識においても補完関係があります。がん細胞はMHCクラスI分子を減らしてキラーT細胞の認識を回避しようとしますが、そうした細胞はNK細胞の標的です。逆に、MHCクラスI分子を維持している細胞でも、特定の腫瘍抗原を発現していればキラーT細胞が攻撃できます。この二重の監視システムにより、免疫回避を試みるがん細胞を見逃さない体制となっているのです。
また、NK細胞が産生するインターフェロンγはキラーT細胞の活性化を促進し、活性化したT細胞が産生するインターロイキン2はNK細胞の増殖と攻撃力を高めます。こうしたサイトカインのネットワークにより、両者は互いの働きを強化し合っているのです。
キラーT細胞とNK細胞の特性を活かした、さまざまながん免疫療法が開発されています。具体的には以下のがん治療で応用されています。
どのような仕組みなのか、詳しく見てみましょう。
NK細胞療法は、患者さん自身のNK細胞を体外で大量に培養し、体内に戻す治療法です。培養により約1,000倍に増やしたNK細胞を点滴で投与することで、がん細胞を攻撃する免疫細胞の数を大幅に増やします。
この治療法の大きな利点は、即効性があることです。キラーT細胞のような活性化プロセスを必要としないため、投与後すぐに効果が現れる可能性があります。また、自分自身の細胞を使うため重篤な副作用が少なく、発熱や倦怠感などの軽度な症状にとどまることがほとんどです。他のがん治療との併用も可能で、手術や化学療法と組み合わせることで相乗効果が期待できるでしょう。
ただし、保険適用外で費用が高額になること、すべてのがんに効果があるわけではないことに注意が必要です。
樹状細胞ワクチン療法は、キラーT細胞を活用した代表的な治療法です。患者さんのがん組織から抗原を採取し、樹状細胞に取り込ませて培養します。この樹状細胞を体内に戻すと、キラーT細胞に効率的に抗原を提示し、がん特異的なキラーT細胞を増やすことが可能です。
また、CAR-T細胞療法という最先端の治療も注目されています。患者さんのT細胞を取り出し、遺伝子改変によってがん細胞を認識する受容体を持たせた後、体内に戻す治療法です。特定の血液がんに対して劇的な効果を示すケースもあり、新たな治療の選択肢として期待されています。
近年では、複数の免疫細胞を同時に培養して投与する「複合免疫療法」も開発されました。NK細胞やキラーT細胞など6種類の免疫細胞を組み合わせることで、より高い治療効果が期待されています。
NK細胞は、抗体依存性細胞傷害(ADCC)という特殊な攻撃方法を持っています。がん細胞に結合した抗体を認識して攻撃する仕組みです。
近年のがん治療で使われる抗体医薬(分子標的薬)の多くは、このADCC活性を利用しています。抗体医薬ががん細胞に結合すると、NK細胞がその抗体を目印として集まり、効率的にがん細胞を破壊します。NK細胞療法と抗体医薬を併用することで、この相乗効果がさらに高まり、治療効果の向上が期待されているのです。

日常生活の中で、これらに注意を払うことで免疫細胞の働きを高められる可能性があります。
免疫細胞をの恩恵をより受けるために、ぜひ実践してみてください。
睡眠は免疫機能の維持に不可欠です。睡眠不足が続くと、NK細胞の活性が著しく低下することが研究で明らかになっています。質の良い睡眠を7〜8時間確保することが重要です。
具体的には、就寝前のスマートフォンやパソコンの使用を控え、寝室の温度を快適に保つなどをしましょう。規則正しい睡眠リズムを作ることも、免疫機能の安定に効果的です。夜更かしを避け、毎日同じ時間に就寝・起床する習慣を心がけてください。
栄養バランスの取れた食事が免疫の基本です。特に、ビタミンDやビタミンC、亜鉛やセレンなどの栄養素は、免疫細胞の機能維持に重要な役割を果たします。
また、発酵食品に含まれる乳酸菌やビフィズス菌は、腸内環境を整えることで免疫機能を調整します。腸管には全身の免疫細胞の約7割が集中しているため、腸内環境の改善は免疫力向上に直結するポイントです。ヨーグルトや納豆などの発酵食品を日常的に摂取しましょう。
きのこ類に含まれるβ-グルカンも、NK細胞を活性化する作用が報告されています。他にも、シイタケやマイタケ、エリンギなどを積極的に取り入れるのがベストです。また、ほうじ茶に含まれるポリフェノールも免疫調整作用を持つと考えられており、日常的に飲むと良いとされています。
慢性的なストレスは免疫細胞の働きを抑制します。ストレスホルモンであるコルチゾールが長期間高い状態が続くと、NK細胞やキラーT細胞の活性が低下し、感染症やがんのリスクが高まってしまうのです。
ストレスを解消するためには、適度な運動が効果的です。週に数回、ウォーキングやジョギングなどの有酸素運動を行うことで、NK細胞の活性が高まることが知られています。ただし、過度な運動は逆に免疫機能を低下させる可能性があるため、自分の体力に合った運動量を心がけましょう。
また、瞑想やヨガ、深呼吸や趣味の時間など、自分なりのリラックス方法を見つけることが大切です。笑うこともストレス軽減に効果的で、NK細胞の活性を高めることが研究で示されています。日常生活の中で笑顔を増やす工夫をすることも、免疫力向上につながります。
キラーT細胞とNK細胞は、どちらも体を守る重要な免疫細胞ですが、働き方に明確な違いがあります。がん治療の分野では、これらの免疫細胞の特性を活かした免疫療法が開発され、新たな治療の選択肢となっています。
免疫細胞を良い状態で活動させるには、睡眠の確保や食事などに注意を払ってください。両者は時間軸でも標的認識の面でも役割を分担し、互いに補完し合う関係にあります。日常生活でのケアを心がけ、免疫細胞の働きをサポートしましょう。
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