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制御性T細胞(Treg)とは|免疫のブレーキを外してがんと闘う最新戦略

私たちの体には、がん細胞を攻撃する免疫システムが備わっています。しかし、がん細胞は巧妙に免疫の攻撃から逃れる仕組みを持っています。そんな中、がん治療の鍵を握るのが「制御性T細胞(Treg)」です。

本来は免疫の暴走を防ぐ重要な細胞ですが、がん組織では免疫のブレーキとして働き、がん細胞への攻撃を妨げてしまいます。このTregを制御することで、がん免疫療法の効果を高める研究が進んでいるのです。

本記事では、制御性T細胞の基本からがんとの関係、最新の治療戦略まで解説します。

制御性T細胞(Treg)とは

制御性T細胞(Treg)は、免疫反応を制御する特殊なT細胞です。1995年に大阪大学の坂口志文教授によって発見され、免疫学に革新をもたらしました。通常のT細胞が異物やがん細胞を攻撃する「アクセル役」であるのに対し、Tregは過剰な免疫反応を抑える「ブレーキ役」を担っていることがわかったためです。

Tregの最も重要な特徴は、転写因子FoxP3(Forkhead box P3)を発現していることです。FoxP3はTregの機能維持に必須の分子であり、その他にもCD4やCD25、CTLA-4といった分子マーカーによって識別されます。

Tregの本来の役割

健康な状態において、Tregは免疫システムのバランスを保つ重要な役割を果たします。

免疫細胞は常に体内をパトロールし、病原体や異常な細胞を監視する存在です。しかし、この監視システムが過剰に働くと、本来攻撃すべきでない自分の細胞まで標的にしてしまいます。Tregはこうした免疫の暴走を防ぎ、以下のような機能を持ちます。

  • 自己反応性T細胞の活動を抑制し、自己免疫疾患の発症を防ぐ
  • 過剰な炎症反応を抑制し、組織の損傷を最小限に抑える
  • アレルギー反応を抑える

免疫細胞の暴走を防ぐことで、身体が本来のバランスで保てているのです。

がん組織におけるTregの問題

ところが、がん組織においては、このTregが裏目に出てしまうことがわかりました。多くのがん患者の腫瘍組織を調べると、正常組織に比べてTregが大量に集積していることがわかっています。がん細胞を攻撃しようとする免疫細胞に対して、Tregがブレーキをかけてしまうのです。

具体的にはがん細胞は積極的にTregを呼び寄せ、増やすことで、免疫からの攻撃を回避する「免疫逃避」を行っています。腫瘍内のTregは、細胞傷害性T細胞(キラーT細胞)の活性を低下させ、IL-10やTGF-βといった免疫抑制性サイトカインを産生します。また、樹状細胞の抗原提示機能を阻害することで、効果的な抗がん免疫の立ち上がりを妨げます。

つまり、Tregは本来の「免疫のブレーキ」という役割をがん組織でも発揮してしまい、結果としてがん細胞の「守護神」のように機能してしまうのです。

がんはどのようにTregを利用するのか

がん細胞がTregを利用して免疫から逃れる仕組みは、巧妙かつ多岐にわたります。

まず、がん細胞や腫瘍関連細胞はCCL22やCCL28などのケモカインを産生し、血液中を循環するTregを腫瘍組織に引き寄せます。この化学物質は、Tregにとっての誘引シグナルとして機能するものです。

腫瘍組織に到達したTregは、そこで増殖を続けます。がん細胞が産生するTGF-βなどのサイトカインは、Tregの生存と増殖を促進する環境を作り出すのです。さらに、腫瘍の微小環境では本来がん細胞を攻撃するはずだった通常のT細胞が、Tregへと変換されてしまうことさえあります。

腫瘍内に集積したTregは、さまざまな方法で抗腫瘍免疫を抑制します。その結果、細胞傷害性T細胞の活性化を阻害し、免疫抑制性サイトカインを分泌することで周囲の免疫細胞全体の活性を低下させてしまうのです。また、樹状細胞の抗原提示機能を妨げることで、効果的な抗がん免疫の立ち上がりを阻止してしまいます。

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Tregとがんの予後の関係

臨床研究により、腫瘍内のTregの量ががん患者の予後と深く関係していることが明らかになっています。具体的には以下の2点です。

  • Tregが多いと予後が悪い
  • バイオマーカーとして発見に役立つ

それぞれ詳しく見てみましょう。

Tregが多いと予後が悪い

多くのがん種において、腫瘍組織内のTregの割合が高い患者ほど、生存期間が短い傾向が確認されています。特に、Tregと細胞傷害性T細胞の比率が重要な指標です。

大腸がんや肺がん、乳がんや卵巣がんなど、さまざまながん種でこの関係が報告されています。Tregの浸潤が多い腫瘍ほど転移のリスクが高く、また免疫療法の効果が低い傾向があることもわかりました。

これは、Tregががん細胞の増殖や転移を助けていることを示す重要な証拠です。腫瘍内でTregが多いということは、がん細胞に対する免疫の攻撃が十分に機能していない状態を意味していることになるのです。

バイオマーカーとして発見に役立つ

腫瘍内のTregを測定することで、さまざまな臨床的判断に役立てる研究が進んでいます。

がんの悪性度や進行度を評価する際、Tregの量は有用な指標です。手術で摘出した腫瘍組織を詳しく調べることで、再発リスクを予測できる可能性があります。高リスクと判断された患者には、より積極的な術後補助療法を検討できるためです。

また、免疫療法の効果を予測するバイオマーカーとしても注目されています。治療前に腫瘍内のTregの状態を評価することで、免疫チェックポイント阻害剤などの効果が期待できるかどうかを判断する材料となるのです。

将来的には、Tregの状態を評価することで個々の患者に最適な治療戦略を立てられるようになると期待されています。血液検査で簡便にTregを測定できる技術も開発が進んでおり、より多くの患者に恩恵をもたらすでしょう。

Tregを標的としたがん免疫療法

Tregががんの進行に重要な役割を果たすことが明らかになり、Tregを標的とした治療法の開発が活発に進められています。特に以下の4点での活用が検討されています。

  • 免疫チェックポイント阻害剤
  • 選択的除去
  • 低用量化学療法によるTreg制御
  • 複合免疫療法

それぞれ詳しく見てみましょう。

免疫チェックポイント阻害剤

現在実用化されている代表的なTreg標的療法が、免疫チェックポイント阻害剤です。

抗CTLA-4抗体であるイピリムマブ(商品名ヤーボイ)は、CTLA-4という分子を阻害します。CTLA-4はTregに高発現しており、免疫のブレーキとして機能しています。イピリムマブはTregの免疫抑制機能を低下させ、腫瘍内のTregを減少させる効果があります。そのため、悪性黒色腫をはじめとする複数のがん種で延命効果が確認されているのです。

また、抗PD-1抗体のニボルマブ(オプジーボ)やペムブロリズマブ(キイトルーダ)も、間接的にTregの機能を抑制します。これらの薬剤はがん細胞と免疫細胞の間のPD-1/PD-L1経路を遮断し、免疫細胞の活性を回復させるのです。肺がんや腎臓がん、膀胱がんや頭頸部がんなど多くのがん種で承認されており、がん治療に革命をもたらしました。

選択的除去

免疫チェックポイント阻害剤に加えて、Tregをより選択的に標的とする治療法の研究が進んでいます。

抗CD25抗体は、Tregの表面に高発現しているCD25分子を標的としてTregを除去しようとするアプローチです。動物実験では抗腫瘍効果が確認されており、現在臨床試験が進行中です。

また、多くのTregが発現するCCR4というケモカイン受容体を標的とした抗CCR4抗体(モガムリズマブ)も注目されています。この薬剤は成人T細胞白血病リンパ腫の治療薬として承認されており、固形がんへの応用も研究されています。

低用量化学療法によるTreg制御

一部の化学療法薬を低用量で使用すると、Tregを選択的に減少させる効果があることがわかっています。

シクロホスファミドは、通常の抗がん剤として使われますが、低用量で投与するとTregが選択的に減少します。他の免疫療法と組み合わせることで相乗効果が期待されているのです。

また、リンパ球を減少させる作用を持つフルダラビンも、Tregの減少に効果があります。がんワクチン療法の前処置として使用される場合があり、免疫応答を高める効果が報告されています。

複合免疫療法

より効果的ながん治療を目指して、複数のアプローチを組み合わせる研究も進んでいます。がん抗原に対する免疫応答を誘導するがんワクチンと、Tregを抑制する治療を組み合わせることで、より強力な抗腫瘍効果が得られる可能性があるのです。

CAR-T細胞療法やTIL療法などの養子免疫療法において、Tregを抑制することで治療効果を高める試みも行われています。一部のがん免疫療法専門クリニックでは、NKT細胞を活性化することでTregの機能を抑制し、同時にがん細胞への攻撃を強化するアプローチが試みられています。

治療における課題と注意点

Tregを標的とした治療には大きな可能性がある一方で、いくつかの課題も存在します。具体的には、次の3点です。

  • 自己免疫反応が起こるリスクがある
  • 腫瘍内のTregのみを標的にできる技術がない
  • 効果には個人差がある

上記のリスクがあることをよく検討し、実際に治療を受けるかどうかを判断してください。

自己免疫反応が起こるリスクがある

Tregの本来の役割は自己免疫を防ぐことです。そのため、Tregを過度に抑制すると、正常な組織に対する自己免疫反応が起こるリスクがあります。

実際、免疫チェックポイント阻害剤では免疫関連有害事象が報告されています。具体的には次の疾患です。

  • 免疫性大腸炎
  • 免疫性肺炎
  • 免疫性肝炎
  • 甲状腺機能異常
  • 1型糖尿病 など

これらの副作用は、免疫のブレーキが外れすぎることで起こります。治療を受ける際は、これらの副作用を早期に発見し適切に管理することが重要です。定期的な血液検査や画像検査、症状の観察が必要となります。副作用が現れた場合は、ステロイドなどの免疫抑制剤による治療が行われます。定期的な検査を必ず受けるようにしてください。

腫瘍内のTregのみを標的にできる技術がない

理想的には、腫瘍内のTregのみを標的とし、全身の正常なTregには影響を与えない治療が望まれます。しかし、現在の治療法ではこの選択性が十分ではありません。

全身のTregを抑制すると、自己免疫反応のリスクが高まります。腫瘍特異的にTregを制御する技術の開発が、今後の重要な研究課題となっているのです。

現在研究されているアプローチには、薬剤を腫瘍に直接注入する方法や、腫瘍に集積するように設計したナノ粒子を用いる方法などがあります。また、腫瘍抗原を認識するTregのみを選択的に除去する技術も開発が進められています。

効果には個人差がある

Tregの量や機能、免疫チェックポイント阻害剤への反応性には、患者ごとに大きな個人差があります。同じ薬剤を使っても、著しい効果を示す患者がいる一方で、まったく効果が見られない患者もいます。この違いがどこから来るのか、完全には解明されていません。

腫瘍内のTregの状態を評価し、それに基づいて治療法を選択する「精密医療」のアプローチが重要になってきています。治療前に腫瘍組織を詳しく調べ、バイオマーカーを測定することで、効果が期待できる患者を選別できる可能性があるのです。

まとめ

制御性T細胞(Treg)は、がん細胞が免疫から逃れるために利用する重要な仕組みです。腫瘍組織に集積したTregは、がん細胞への免疫攻撃を抑制し、がんの進行を助けてしまいます。イピリムマブやニボルマブなどの薬剤は、すでに多くのがん患者の命を救っています。

今後は、より選択的で副作用の少ないTreg標的療法の開発が進むでしょう。実際、技術の進歩により、さらに多くの患者が恩恵を受けられると期待されています。がんとTregの関係を理解し、Tregを適切に制御することは、がん免疫療法の成功の鍵を握っているのです。

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